photo by 侑布子
2024年11月3日 樸句会特選句
帰国便釣瓶落しの祖国かな
小松浩
作者は海外で旅行または仕事をし、日本の気象からはしばらく遠ざかっていたのでしょう。久々だわ、といった気分で「帰国便」が空港に着陸しようとすると、彼の国では明るかった時間に、早くも街は火灯しはじめ、タラップを降りる足元には「釣瓶落し」の闇が迫ります。にわかに胸に、この国の将来が重なって来るのです。二十一世紀初年は世界五位だった一人あたりGDPが昨年は二十四位になり、低落の一途です。急速に暮れる秋の「釣瓶落し」に、昭和のものづくり立国、教育立国のあとかたもない衰退が重なるやるせない悲憤慷慨。実感がこもっています。
(選・鑑賞 恩田侑布子)