3月3日 句会報告と特選句

桃の節句の句会。兼題は「紅梅、和布」です。
句会会場近くの駿府城公園に紅葉山庭園があります。ちょうどいま、飛び石伝いに梅林を散策して香りにうたれることができます。

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高点句を紹介していきましょう。

朝日入る一膳飯屋わかめ汁   佐藤宣雄

恩田侑布子の入選句で、合評では、
「生活感のある句だ。夜勤を終えてくつろぐ肉体労働者の姿が浮かぶ」
「“朝日入る”という上五がいい。作者の感性に共感した」
「学生街の一膳飯屋を想像した。都会の一隅の光景」
「独り者だろう。“朝日入る”が効いている。小さな開放的な店の景がくっきりしている。月並みでない面白さがある」
などの感想、意見が出ました。
恩田は、
「みなさんの鑑賞がいい。シッカリ書けていて、曲解されることのない句でしょう。安サラリーマンや学生が気軽に寄る店。あたたかい元気なおじちゃんおばちゃんが迎えてくれる。上五が清々しく、飾り気がない。和布の兼題で、浜辺ではなく店をもってきて成功している。平易な言葉が使われており、いろいろな人の想像力を掻き立てることができた」
と講評しました。
作者は、
「兼題は和布だが、浜は詠みたくなかった。わかめ汁 → 一膳飯屋 → 朝日入る という流れでイメージが広がっていった」
と述べました。昔、こんな経験があったそうです。

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紅梅や進む病状月毎に   樋口千鶴子

恩田侑布子の入選で、合評は
「深刻な病気の状況であろう。現代社会では、安楽死など死をめぐる議論がいろいろある。人工呼吸器を着けたらもとに戻れない。大変な気持ちを抑えて句にしている。それを紅梅と対比させている」
との共感の声がありました。
恩田は、
「“紅梅”が効いている。紅梅はうつくしいが、むごさや残酷さも併せ持つ。他の植物では中七以下を受け止めきれないだろう。あえて感情を押し殺して事実のみを述べた。そぎ落とされた表現が共感を呼ぶ」
と講評しました。
作者は、
「身内が末期の状態にある。今、新薬に期待しています。気持ちを句に表すことによって自分が和らいでいく。悲しみや苦しみを乗り越えられる」
と述べました。

色褪せてなを紅梅の香を残し   樋口千鶴子
 
「近くの公園に白梅と紅梅が咲いている。紅梅は白梅に比べて少し重い。しつこさもある。この句は、まだまだどっこい生きているぞという心意気がベースにあると感じた」
との感想が聞かれました。
恩田は、
「千鶴子さんはいつもものをよく見ている。誠実な眼差しが感じられる。白梅の潔い散り際に比べて、紅梅は白っぽく色が抜けたり、逆にくろずんだりして縮れて落ちる。ここでは香りに注目したのが良い。昔の人は香りの高い植物を愛好し、自分の生きる鑑とした。この句は散文のようだが、内容が良く、下五に実がある。紅梅のありように自分を重ねた。一生を見つめて一瞬を詠むのが俳句」
と講評しました。
作者は、
「自宅の小さな庭に鹿児島紅梅がある。今の世の中、嫌な事件でうんざりだ。それに比べると植物はすごい。生を全うする姿に惹かれる」
と述べました。

紅梅の髪にかざして自撮りして  久保田利招

「~して~して、という軽快感がよい」
「髪に花をかざす習慣は昔からあったが、“自撮り”で新しさが出た」
などの感想。
恩田は、
「軽いタッチの句。紅梅とこの女性の自己愛(ナルシシズム)がつり合っている。白梅ではこうはいかない。季語が効いている」
と講評しました。

風に老い飛沫に老いぬ和布採   伊藤重之

「“老い”のリフレインが効いている。和布採りの一情景と一老人の生き方が重なる」
との感想。
恩田は、
「対句をいいと思うか、鼻につくかで評価が分かれる。ちょっとカッコつけすぎているところのある句だ」
と講評しました。

[後記]
 今回の句会で恩田が強調したのは「よく見る」ということでした。
よく見る(視る)とは、ただ網膜という器官に像を写すのではなく、意識と五感を総動員しなければいけないことを痛感。
次回の兼題は「古草」「春障子」です。
(山本正幸)

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特選
紅梅を仰げるあぎと娶りけり                      山本正幸

 濃艶である。紅梅を仰ぐ女性の透けるような白い肌の顎から喉もと、首筋がみえてくる。こんな美しい女を我妻にしたのだという男の満足感と、ある種の征服感まで感じられる。白い喉のなめらかさに負けず、紅梅はいっそう黒々と濃く中天にこずむ。性愛の烈しさが匂う。「あぎと」に焦点を絞って、紅梅の紅と対比させた技法が巧みである。講座では、「娶りけり」はジェンダーギャップのことばで不快、という意見も出た。たしかにそう。しかしそれがわたしたちの蓄えてきた「言語阿頼耶識」であることも事実。時に、性愛の場は平等をよろこばない。さくらよりも肉感的なエロスを匂わせる紅梅がふさわしい由縁。

(選句・鑑賞 恩田侑布子)

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