5月6日 句会報告

平成30年5月6日 樸句会報【第48号】

20180506句会報
                     photo by 侑布子

五月第1回の句会です。ゴールデンウイーク最終日とあって静岡市中心部にある駿府城公園にはどっと人出。今夜、公園内の特設会場で催される「ふじのくにせかい演劇祭2018『マハーバーラタ』」公演に参加される句会員もいるようです。
入選1句、原石賞3句、シルシ5句、・4句という結果でした。
兼題は「薄暑」「夏の飲料(ビール、ソーダ水等)」「香水」。
入選句及び原石賞の句を紹介します。

(◎ 特選 〇 入選 【原】原石 △ 入選とシルシの中間
ゝシルシ ・ シルシと無印の中間)

〇サイダーの泡 れやまず逢ひたかり
            山本正幸
 

合評では、
「サイダーはまさに初夏。甘かったり、ちょっと酸っぱかったり。泡を見ているうちに恋人に逢いたい気持ちが募ってきたのでしょう」
「泡がどんどん生まれてくる動きの中に作者の気持ちが表現された。こちらも気持ちよく読めました」
「逢いたい気持ちがふつふつと湧いてくる。せつないですね」
「いいとは思うが、イマイチ強さが足りない。作ったような感じ」
「共感しませんでした。逢いたければ私はどんどん自分から行きます!」
などの感想・意見が述べられました。
恩田侑布子は、
「サイダーをグラスに注いだ瞬間、透明な泡が無数に涌き上がってくる。ああ、逢いたいなという瞬時に涌き上がった切なさがいいです。学生時代の恋人でしょうか。なつかしさと一緒になった切ない思慕。中七の切れ“泡生れやまず”がうまいですね」
と講評しました。
                   
    
【原】香水に閉じこめし街よみがえり
            天野智美
 

合評では、
「匂いというのは忘れ難い。もう戻れない街だけれど・・」
「街がよみがえるって、記憶がよみがえるということですか?」
「匂いの記憶は言葉以上のものがありますね」
という感想や質問。
恩田は、
「“閉じこめし街”が分かりにくい。散文的な書き方です。しかし、内容は面白い。気持ちに共感できます」
と述べ、次のように添削しました。
 香水や封じたる街よみがえり
または
 香水に封じし街のよみがえる
「“閉じこめ”よりも“封じ”のほうが気持ちに近くないですか?」
と問いかけました。

                            

 投句の合評と講評のあと、注目の句集として、上野ちづこ処女復帰句集『 黄金郷エルドラド』(1990年10月深夜叢書社刊)が紹介されました。
“上野ちづこ”は社会学者で東大名誉教授の上野千鶴子さん(1948年生まれ)です。
合評では、
「地下にうごめくマグマのような人ではないか」
「私には難しすぎます」
「自己満足的で一般市民に届いていないのでは?」
「ひどい破調をこれだけ堂々と詠めるのはすごい」
「70年代だからこういう感覚なのだろう。少女っぽいところもある」
「難解句といいながらも、意外と分かります」
「“虫ピン”の句はマルセル・デュシャンをみるようです」
「俳句というよりも“短詩”ではないでしょうか」
などの感想が述べられました。

恩田は次のように解説しました。
「無季で自由律の句をこれだけ書ける人はめったにいません。俳句文芸の無限の可能性を感じてほしい。水準はとても高く、哲学と詩に隣接しています。異界を覗くような句、じつに抒情的な句、消費社会の飽くなき欲望を詠んだ句、哲学的に深く宇宙的なものに届く句があります。当時もしこの人の才能を見出す名伯楽がいたなら、上野千鶴子さんは俳人としても大成したのではないでしょうか。俳句史における一大損失といえるかもしれません。皆さんも従来の自分に凝り固まらずに、各々の表現方法を追求してほしいと思います」
連衆の点を集めた句は以下のとおりです。
 わたしというミスキャスト 幕が降りるまで
 虫ピンで止める時間の 標本箱コレクション
 充溢する闇を彫っても彫っても
 弱い人よ この蕩遥のバスに乗るな

※ 上野ちづこ『黄金郷エルドラド』についての恩田のレジュメはこちら

[後記]
兼題によって投句内容の浮沈があるのでしょうか。今回はやや低調。「香水」には苦労したという声が多くきかれました。
上野さんの句については、1970~80年代の空気や、時代を牽引した思想家・文学者・芸術家などを背景に読むと実に興味深いものがあります。
次回兼題は「短夜」と「新緑」です。(山本正幸)

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