2023年4月2日 樸句会特選句
花朧坂の上なる目の薬師
天野智美
花がぼうっと朧にかすむ夕べ、石段を一つ一つお堂まで上ってゆく。坂を上れば、目の病に霊験あらたかなお薬師様が薬壺を掲げて待っていてくださる。嘱目の吟行句とは思えない完成度である。ひとえに「花朧」の季語の斡旋が手柄。これがもし、実際に訪れた「花の昼」であったら、とたんに一句はぼやけた。「花朧」だからこそ、眼病がこれ以上進まないようにと祈る切実さが伝わる。季語が作者の詩的真実になっている。
(選 ・鑑賞 恩田侑布子)
(選 ・鑑賞 恩田侑布子)