1月20日 句会報告と特選句

koubaiyuki

新年2回目の句会が催されました。兼題は「枯野」「御降」「雑煮」です。
今回は力作揃い。高点句や話題句などを紹介していきましょう。

単線の地平に消えり大枯野
           久保田利昭

恩田侑布子原石賞。
「景が大きい。単線に親しみを感じる」
「景色が見えるが、地平と大枯野が重なるように思う」
などの感想、意見が出ました。
恩田は、
「“消えり”は日本語として間違い。終止形が‟消ゆ”であるので、ここは‟消ゆる”か‟消えし”が正しい。‟消ゆる”は現在形で含みが感じられ、‟消えし”は過去形となり調べはいいが少し弱くなる。‟消ゆる”にすれば、‟の”が切字として働く。鉄路と枕木のみが続いている眼前の光景。単純な映像に迫力がある。謎があり、それからどうなった?と連想が広がっていく」
と講評しました。

 
 
御降や一直線の下駄の跡
            松井誠司

恩田侑布子入選。
「雨の後、下駄の跡だけ続いている光景で、詩的である」
「雪だと思う。年あらたな清浄な雰囲気が出ている」
「きれいでいいが、やや既視感がある」
などの感想、意見が出ました。
恩田は、
「雪だろう。無垢な感じがよく出ており、一種のめでたさがある。歳旦詠はかくあるべきで、有難さがにじみ出ている」
と講評しました。
 
 
一生(ひとよ)とは牛の涎と雑煮喰ふ
            萩倉 誠

 
「生活感が溢れている。面白い句。一生を涎のように気長に暮らす。若い頃はこういう気持ちにはならないのだろう。「と」ではなく、「か」「や」「ぞ」で切ったほうがいいか」
「人生は牛の涎と同じという発想が面白い」
「「商いは牛の涎」ということわざがある。それと同じで人間の一生は切れ目がないという見方に脱帽」
などの感想、意見の一方で、
「なんか臭ってきそう。お雑煮が美味しくなくなる」
との拒否的(?)な感想も。
恩田は、
「大胆な発想の飛躍がある。何十回と繰り返している正月、昨年も一昨年もこうだったなと。牛の反芻に結び付けたことが効いている。雑煮の神聖性を引っくり返した。俳味あり。自己戯画化が面白い」
と講評しました。

今回の句会では、「(ボブ)ディラン」を詠み込んだ句(特選句)への合評が引き金となり、「引用」の問題が話題に上がりました。
「固有名詞、地名等を詠むとその言葉の喚起力やイメージに頼りすぎてしまうのではないか」という疑問の声。また、「分かる引用と分からない引用がある。鑑賞者の立場も考慮すべきであろう」との意見もありました。
恩田は、「地名、人名、文学作品等を引用するのも表現の冒険である。イメージに頼るというのならば、まさに季語がそうであり、すべてが引用ともいえる。引用の句を否定したくない。可能性が広がる」と持論を述べました。
 
 
[後記]
 「引用」をめぐる議論が白熱しました。引用した言葉に、思ってもみなかった角度から光を当て、新たないのちが蘇るような句を詠みたいなあ、と皆さんの発言を筆記しながら考えておりました。
次回の兼題は「春を待つ(待春)」「寒晴」です。(山本正幸)

kareno

特選
ディラン問ふ
「Howdoyoufeel」と枯野道                                           萩倉誠

 子どもの頃、ディランやビートルズの歌声は容赦なく耳に入った。団塊の世代は熱狂し、級友たちもコーラと同じように親しんでいた。あれから半世紀。
1965年ディランのヒットシングル「Like a Rolling Stone 」の歌詞を中七に引用し、日本語訳をルビとした異色作である。あの頃、深い気持ちや思想哲学はカッコ悪かった。フィーリングがすべてだった。時代は老い、高度経済成長の右肩上がりの日本は、少子高齢社会となった。
「どんな気分?だれにも知られず転がり落ちてゆく石は」が本歌と知れば、句意はいよいよ深い。青春前期だった作者は、いまディランより少し遅れて古稀に近づいた。作者は両親の墓参りに富士山の裾野の大野原を通ったそうな。枯野のむこうにこの世を転がってゆく石のイメージがある。地平線に仄みえる死の幻影は、「feel」という措辞によってあかるく軽くなる。現実感の希薄さは枯野をあてもなくただよう。
「作者が誰かに質問される句はみたことがない」という意見が合評で出た。そう、そこに新しみがある。不変のディランの歌詞。一変した作者と時代。枯野道には長い時がふり積もる。
俳句技法に熟達した人が「と」が気になるという意見を述べた。

「Howdoyoufeel」

ディランの問へる枯野道

ルーチン通りならこう添削するが、原句の味は死んでしまう。座五の「と」のイージーさが、フィーリングの時代を生きて来た寄る辺なさに合っている。それを感じていたい。
         (選句・鑑賞 恩田侑布子)

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