5月3日 句会報告

令和2年5月3日 樸句会報【第90号】

青葉が美しく生命力にあふれた季節ですが、今回もネット句会です。本日は憲法記念日。恩田から出された兼題はまさに「憲法記念日」「八十八夜」でした。形のないものを詠むのに苦労しつつも独自の視点に立った面白い作品が多く寄せられました。

入選1句、原石賞1句及び△6句を紹介します。

20200503 句会報用上3

photo by 侑布子  

  

○入選
 突堤のひかり憲法記念の日
               山本正幸

第九条をとくに念頭にした志の高い俳句と思います。「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し…」という理想主義、平和主義を諸国に先んずる「突堤のひかり」と捉え、人類の平和のためにこの理想を失いたくない。胸を張って守って行きたい、という清らかな矜持が滲んでいます。共感を覚えます。

(恩田侑布子)

【合評】 

  • 堤の先端に立って見渡す光溢れる世界。日本国憲法公布の日、多くの日本人が抱いた感覚が表現されているように思いました。

 
 
【原】化石こふ故郷八十八夜かな
               前島裕子

作者のふる里は、なんとかの化石の出土地として有名なところで、きっと作者ご自身もそれが誇りであり自慢なのでしょう。その化石と故郷が結びついたユニークさが取り柄の句です。
「望郷の目覚む八十八夜かな」という村越化石の代表句を思い出したりもしますが、と、ここまで書いて、そうか、これは村越化石を題材にした句であり、地質時代の遺骸の石化なぞではないんだとあわてて気づいた次第です。だとしたら、他人事に終わるのではなく、

【改】化石恋ふ故郷に八十八夜かな

とご自分の位置をはっきり示されたほうがより力のある句になるのではないでしょうか。

(恩田侑布子)

 
 
 △ お隣は実家へ八十八夜かな
              樋口千鶴子

お隣さんはこぞって里帰りでがら空き、すこしさみしい、でも隣家のみんなのにぎやかな笑い声を想像してなんとなくほのぼのともしてしまう。そういう八十八夜のゆたかさがよく表れた俳句です。言外にふくよかさがあります。

(恩田侑布子)

 
 
 △ 補助輪を外す憲法記念の日
              芹沢雄太郎

憲法成立時のいさくさを思い、いい加減にアメリカというつっかえ棒をなくして、私たち国民の正真正銘の憲法として独立自尊させよう。という健全な民主主義への思いを感じます。
子供の自転車の補助輪を持ってきたところなかなかですが、寓喩性がやや露わなのが惜しまれます。

(恩田侑布子)

【合評】

  • お孫さんかな、補助輪がはずれ颯爽と自転車をこぐ、自慢げな顔がうかぶ。「憲法記念の日」がきいていると思う。
  • 現行憲法が施行され70年が経過した。この日はそろそろGHQの補助輪を外し、良きものは残し、是々非々の自主憲法の制定を考える日でありたい。補助輪と憲法が響く。

 
 
 
 △ 体幹を伸ばす八十八夜かな
              芹沢雄太郎

気持ちのよい俳句です。背筋を伸ばすならふつうですが、「体幹」は身体の中心なので、こころまで、精神まで正し伸びやかにする大きさがあります。実際どのようにするのかイメージが湧けば更に素晴らしい句になることでしょう。

(恩田侑布子)

【合評】

  • 初夏で本来なら心が浮き立つ時期・・しかしステイホームで運動不足。外出できる日に備えてストレッチ・・健全な心掛けですね。

 
 
 
 △ 秒針の音よりわづかあやめ揺る
              山田とも恵

真っ直ぐで清潔な茎と、濃紫の印象的なあやめの花の本意をよく捉えています。初夏の夜の繊細なしじまが伝わってきます。今後の課題としては、読後に景がひろがってくれるように作れるとなおいいですね。

(恩田侑布子)

【合評】

  • あやめのピンと張りつめたような葉を、秒針の音よりわずかに揺れると表現したのが上手いと感じました。
  • 五風十雨のこの地。風も時もゆったりと流れる。心もまた静か。

 
 
 
 △ 風呂入れ憲法記念日のけんか
              山田とも恵

風呂嫌いの子がけっこういるものです。ささいもない家族の中のけんかを、大きな国家のきまりと溶け込ませて捉えたところにおもしろい勢いが感じられます。

(恩田侑布子)

【合評】

  • 父親と息子のけんかだろうか。
    改憲議論からの口論だろうか。いやいやそんな高尚な話ではない。
    最後には「とっとと風呂入れ!」の親の一言で結んだケンカ。
    憲法記念日という固い季語と「風呂入れ」のギャップが読み手を引き付ける。
    国の行く末より家族のあしたの方が問題であり身につまされる。
    堤の先端に立って見渡す光溢れる世界。日本国憲法公布の日、多くの日本人が抱いた感覚が表現されているように思いました。

 
 
 
 △ レース編む一目の窓に来る未来
              海野二美

夏に向かってレースを編み始めた作者。「一目の窓に」が初々しくていいです。しかも「未来」と大きく出た処、まさに青空が透けて見えて来るようです。

(恩田侑布子)

【合評】

  • お子さんかお孫さんのために何か編まれているのでしょうか。レースの網目に未来が生まれてくるという発想が素晴らしい。ただ「窓に来る」という表現が若干説明しすぎのような気もしないではないですが、どうでしょう。

 
 
 
今回の句会のサブテキストとして、恩田侑布子の『息の根』7句、『よろ鼓舞』7句、計14句を読みました。
連衆の句評は「恩田侑布子詞花集」に掲載しています。
 
    『息の根』7句 『よろ鼓舞』7句 
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[後記]
筆者にとって「憲法記念日」は自分の信条を物や景色に託してどこまで出していいか非常に迷う難しい兼題でしたが、逃げずに向き合う良い機会となりました。恩田が総評として次の言葉を寄せています。「憲法記念日の季語は、ふだん感性主体で作っている俳句の土台に、ほんとうは現代の市民としての社会性や、世界認識が必要であることを気づかせてくれたのではないでしょうか。また、八十八夜は、目に見えているのにとらえどころがないおもしろい季語で、こちらは認識というより、いっそう全人的な感性それ自体が問われ、焦点を絞ることの大切さを学ばれたと思います」(天野智美)

次回の兼題は「青葉木菟」「浦島草」です。

今回は、○入選1句、原石賞1句、△6句、ゝシルシ3句、・5句でした。
(句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です)

 

20200503 句会報用下2

photo by 侑布子  

  

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