2月24日 句会報告

2021年2月24日 樸句会報【第101号】

2021年如月の句会は、コロナウイルス第3波を考慮しリモート句会となりました。

兼題は当季雑詠、または「探梅」「寒肥」(前回、急遽休会となったぶん)です。

入選4句を紹介します。

20210224 上修正1
    いつてらつしやい背中から春の富士      恩田侑布子

 
 
○入選
 探梅や独り上手の万歩計
              海野二美

【恩田侑布子評】

ひとり歩きは探梅にこそふさわしい。冬の梅はおもいがけない山かげに真っ白な空間をつくり清香をただよわせています。そのつつしみ深さは独歩のひとの胸にかようもので、複数でおしゃべりしていたら雲散します。この句のよさは、「探梅や」と上五で冬の梅の空間を響かせ、ひとり歩きの人の万歩計に焦点がさだまることです。万歩計にカウントされる歩数を頼りとし、楽しみともして健康を気遣いながらそぞろ歩きする年配者の思いに、冬の梅を探る空気が感じられます。孤独が社会問題の現代にあって、「独り上手」という措辞も気が利いています。
  
 
 
 
○入選
 風上は南アルプス寒肥す
              村松なつを

【恩田侑布子評】

大井川のほとりに山荘をもつ作者は、茶畑や菜園に寒肥をほどこしています。川風もさることながら、吹き下ろす北風はなにより南アルプスの神々の座からやってきます。雪の降らない静岡県中部は冬青空が美しいところです。「南アルプス」の措辞によって、青天の高さはるけさと足元の寒肥との対比が、いちやく勇壮の気を帯びました。

【合評】

  • 大景と手元の作業の対比があざやか。
  • 気持ちのいい句です。吹き来る風は南アルプスから。広い空、遠い山脈を背景にして寒肥作業に精を出す人の姿が見えてきます。
  • 黒い地を耕す小さな人間が白いアルプスを背にした広大な景。

 
 
 
○入選
 探梅や杖に拾ひし棒を振り
              村松なつを

【恩田侑布子評】

山坂がちの探梅行です。もっと足元が悪くなると困るから、予備にこの棒でも拾っておこうか。そう思って杖にしたはずの細い木の棒でしたが、気がつけばいつのまにか調子良く振り回して歩いていました。一人の気楽でしずかな梅を探る時間が活写されています。どちらかというと〈風上は南アルプス寒肥す〉の優等生的俳句より、こちらの野趣あふれる無欲な俳句に惹かれます。また、こうしたところにこそ、作者の本来の個性が今後ますますひかり出るのではないかと期待しております。

 

20210224 中
    あんたはんどこいかはるのはるのつち      恩田侑布子
 
 
 
○入選
 紅梅や晶子の歌碑は海へ向き
              山本正幸

【恩田侑布子評】

同じ梅でも白梅とはちがって、紅梅は春浅い空にくっきりと濃厚な輪郭をきざみます。そのあでやかさはまさに近代短歌の女王、与謝野晶子のもの。しかも、大海原にむかう歌碑は晶子という歌人の肺腑の大きさを象徴するようです。「清水へ祗園をよぎる花月夜こよひ逢ふ人みな美くしき」の『乱れ髪』から、晩年の「初めより命と云へる悩ましきものをもたざる霧の消え行く」の『白桜集』まで、旺盛な作歌と評論活動を展開した表現者は終生自己更新をしつづけました。清見寺にある歌碑「龍臥して法の教へを聞くほどに梅花の開く身となりにけり」に触発されたという掲句は、K音の点綴も歯切れよく、高らかな晶子賛歌、紅梅賛歌になっています。

【合評】

  • 輝く才能と、意志を貫く強さの持ち主である与謝野晶子には、狭くて暗い場所は似合わない。今も、広々した美しい世界へ眸を向けている気がします。まだ寒い春先に紅色をほこる梅を思わせるような、凛とした香気を放ちながら。

 
 
 
学びの庭

 表現の苦しみとよろこび
                    恩田侑布子

今回はリモート句会が続いたせいか、表面的にいいすぎてしまっている句が目立ちました。すべて言ってしまうと大事な詩の余白がうまれません。日常生活はりくつと因果関係からなり立っています。俳句という詩は日常や事実をふまえつつも、そこから自由にはばたいてふたたび着地する文芸です。日常べったりでも、絵空ごとでもない「虚実皮膜ひにく」を目指しましょう。
芭蕉の名言、「心の作はよし。ことばの作は好むべからず」はどんな場合にも肝要です。ことばの上の作意をよしとすれば、器用さでいくらでも七、八〇点の句をならべられるようになるでしょう。となると、将来の俳句宗匠の座はAIが占めることになりかねません。
ソツのないよく出来た句より、破綻をおそれず切実な足元から破行句を!と申し上げて次回を期します。俳句を表現する苦しみこそ、よろこびであり楽しみだと、だんだん思うようになってきます。これは何ものにもおかされないこころの財産になります。
 
 
 
 
[後記]
今回もリモート句会の後、恩田先生より全句講評と「学びの庭」を送付して頂きました。
連衆の句それぞれに、全人格を持って向き合った先生の講評を読むことは、筆者にとってかけがえのない時間となっています。
講評に散りばめられた箴言を反芻しながら、次回の句会に向けて句作していくことは、独りでは決して設定することの出来ないハードルを、先生や連衆の力を借りて、一つ一つ越えていくような充実感があります。
そして今日もまた、句作をしながら「表現の苦しみとよろこび(恩田)」について思いをめぐらせています。 
                      (芹沢雄太郎)

今回は、〇入選4句、△5句、ゝシルシ8句、・4句という結果でした
(句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です)

20210224 下1
    天つ日をちりめん皺に春の水      恩田侑布子
 
 

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