あらき歳時記 銀杏落葉

銀杏落葉3

photo by 侑布子

 

2021年11月24日 樸句会特選句

 


  銀杏落葉ジンタの告げし未来あり
                    田村千春

 落葉は数しれずありますが「銀杏落葉」といい切ったことで映像が鮮やかに浮かびます。
 「ジンタ」は下町の楽団。ちんどん屋と一緒によくアコーディオンを奏でたりしていました。作者はあったかくて時に調子っ外れになるメロディーの流れるなか、銀杏落葉を踏んでどこかに急いでいました。その時の情景がありありと胸に迫ります。ジンタが告げていたのは、はるか未来であったこの「今」です。今にたどり着いた作者の胸に、過去の銀杏落葉のあざやかな黄色と、人々の囃した音色…茫々の思いがこみ上げてきます。その時、一陣のつむじ風に黄色の扇面の落葉が一斉に空に舞い上がり。過去から未来へ、はるかな時間がつながります。「ジンタ」という死語になりかかったことばを一句はなつかしく蘇らせてもいます。
                      (選 ・鑑賞   恩田侑布子)

「あらき歳時記 銀杏落葉」への2件のフィードバック

  1. 昭和30年代までは静岡市内でも、ちんどん屋の後ろでクラリネットやアコーディオンを面白おかしく奏でる一団の姿を見かけました。その一行が現れると、子どもたちは外に飛び出し、福引などがついたチラシを受け取ったりしました。池田勇人内閣の所得倍増計画にそった高度経済成長の真っ只中、公害という言葉もまだほとんど報じられていない時代、国民の多くがこの国の未来は明るいと信じていました。その時、ジンタが告げた未来が今現在ここにある。銀杏は光に映え金色に輝く、しかし、すでに生命活動を終えた落葉。現在の日本を暗示すると同時に、無邪気な子どもだった自分もまた、いつの間にか老いや病を抱えるようになったやるせなさも漂います。
    この句は、幼い時に感じていた未来が、いま現実となって存在するという稀有な時間感覚から生みだされた秀句であり、俳人・田村千春の誕生を世に告げる句の一つとなる予感をも抱かせます。

    1. 鈴置様
      恩田先生と鈴置様から拙句を遥かに超える鑑賞を頂戴し、恐れ多い限りです。お二人に翼を与えていただき、遠い日、一度だけ触れたジンタの記憶に色を取り戻すことができました。しるべとなる文章をありがとうございます。

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