12月5日 句会報告

2021年12月5日 樸句会報 【第111号】

2年にわたるコロナ禍、熱海での土石流、さらに地球環境の急激な変化が、私たちの身近に迫っていることを感じさせられて来た2021年も、いよいよ師走を迎えました。冬日和のこの日、12月1回目の句会が開かれました。
今回の兼題は、「冬晴」「冬菜」「狐火」。なかでも「狐火」は難しい兼題だと思います。
原石賞3句を紹介します。

20211205-上

photo by 侑布子

        芭蕉の句碑「狐石」を訪ねて
【原】狐火に句碑の上五の失せにけり
               海野二美

【恩田侑布子評】

静岡市葵区足久保には、郷土のほまれ聖一国師が宋からお茶を伝えたことを記念して、芭蕉の「駿河路やはなたちばなも茶のにほひ」を大岩に刻んだ碑があります。茶商が茶畑のまん中に建てた大きな句碑です。岩の下に狐が棲んでいるという村の伝説があります。
この句の第一のよさは、「狐火」の兼題で、「狐石」の句碑を思い出し、中山間地の足久保まで足を運んだ作者の熱意です。第二のよさは、文字のかすれて読みにくくなった句碑を「狐火に上五が失せた」と感受したことです。これはすばらしい発見です。
句の弱点は、せっかくの詩の発見を、正直な前書きで理に落としてしまったことです。読者は「なあんだ、狐石だから狐火か」とがっかりします。前書きは要りません。芭蕉の「旅に病で夢は枯野をかけ廻る」に唱和する気概をもって、一句独立させましょう。ご存知のように俳句で「翁」といえば芭蕉のことです。

【改】狐火に上五失せをり翁の碑

 

【原】媼よりの大根の葉の威風かな
              都築しづ子
 
【恩田侑布子評】 

ひとまず、上五の字余りを「をうなより」と定形の調べにし、〈媼より大根の葉の威風かな〉とするだけでも佳い句になります。さらに、年配の婦人から、丹精した大根、それも青々と葉のたわわな抜きたてを頂いたことをはっきりさせます。それには「もらう」より「給ぶ」が引き締まるでしょう。宝のような措辞「葉の威風」を存分に生かして座五に据えましょう。切れ字は使わなくても、かえって堂々とリアルな俳句になります。

【改】媼より給ぶ大根の葉の威風

 
 
【原】内づらの吾を見ている障子かな
               益田隆久

【恩田侑布子評】

我が家の障子は「内づらの」私しかしらない。ところが、外づらの私はまったくの別人なんだよ。「障子」の兼題から、詩の発見のある面白い句が出来ました。ただ、障子が「内づらの吾を見ている」という擬人化は、かえってまだるっこしくありませんか。素直に叙しましょう。
 
【改】内づらの吾しかしらぬ障子かな

白く沈黙する障子にむかう問わず語りに、どこか人間という生きものの空恐ろしさが感じられる句になります。

 

サブテキストとして、今回と次回の季語の名句が配付され、各自が特選一句、入選一句を選句しました。

    冬晴

 山国や夢のやうなる冬日和
              阿波野青畝

 冬麗や赤ン坊の舌乳まみれ
               大野林火

 冬麗の微塵となりて去らんとす
               相馬遷子

    冬菜

 しみじみと日のさしぬける冬菜かな
             久保田万太郎

 坐忘とは冬菜あかりに在る如し
              宇佐美魚目

    狐火

 狐火をみて東京にかへりけり
             久保田万太郎

 狐火を伝へ北越雪譜かな
              阿波野青畝

 余呉湖畔狐火ほどとおもひけり
              阿波野青畝

 狐火を詠む卒翁でございかな
              阿波野青畝

 狐火や真昼といふに人の息
              宇佐美魚目

    障子

 障子あけて置く海も暮れ切る
               尾崎放哉

 障子あけて空の真洞や冬座敷
               飯田蛇笏

 日の障子太鼓のごとし福寿草
              松本たかし

        築地八百善にて
 障子あけて飛石みゆる三つほど
             久保田万太郎

    おでん

 飲めるだけのめたるころのおでんかな
             久保田万太郎

       ─語る。 
 人情のほろびしおでん煮えにけり
             久保田万太郎

 老残のおでんの酒にかく溺れ
             久保田万太郎

    冬の富士

 ある夜月に富士大形の寒さかな
               飯田蛇笏

 小春富士夕かたまけて遠きかな
             久保田万太郎

このなかで連衆の圧倒的な人気を集めたのは、恩田侑布子編『久保田万太郎俳句集』にも収録されている次の句でした。

 しみじみと日のさしぬける冬菜かな

難しい言葉は一つも使わずに、「日のさしぬける」という措辞が冬菜の雰囲気をよく表しています。

 
 
今回は、原石賞3句、△2句、ゝ6句、・5句でした。
(句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です)

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  12月22日 樸俳句会 原石賞

【原】談笑に懺悔のまじるおでんかな
               古田秀

【恩田侑布子評】
 
おでん鍋を囲んで、心安く打ち解けて笑い声をあげて話し合っていたら、そこに「いやあ、俺、そん時、こんなことしちゃったんだよ」と、過去の過ちを打ち明け出した友がいました。「懺悔のまじる」は推敲したいです。おでんと酒と人情の熱気で、ぐたぐたに酔ってゆく一夜を描くとさらに面白い人間味が出そうです。

【改】談笑のいつか懺悔になるおでん

 
【後記】
12月22日の樸アイセル忘年句会は、ひさしぶりに、関東から2名の俳友が参加してくださり、暖かく賑やかな嬉しい会になりました。
樸に入会してこの半年、俳句は句会に入り師と友を得て、そのなかで学び楽しむものであることを実感しています。同じことは、様々な活動やスポーツ、習い事、学問、芸術、さらには人生そのものにも当てはまるのではないかと思います。来たる年も、恩田先生と俳友の皆さんのなかで切磋琢磨しながら、「座の文芸」俳句の奥深さを味わっていきたいと思います。
                     (鈴置 昌裕)
 

20211205-下

photo by 侑布子

「12月5日 句会報告」への2件のフィードバック

  1. 「冬菜」「おでん」といった親しみやすい季語、ちょっと怖い「狐火」、日本の宝である「富士」「障子」等を兼題として、かけがえのない仲間と冬晴れの句座を囲めた幸せ。恩田先生から双方の名句を熱く解説していただき、心が洗われるようであったのを思い出しました。一年の最後の月に味わった、耀うばかりの時間を甦らせてくださる、丹精のこもった句会報をありがとうございます。

  2. 田村千春様、コメントありがとうございます。なるほど12月の兼題は、そのように位置づけられるのですね。関東の俳友が参加してくださり、その方の作句や選句が浮かび、とても身近に感じられるようになりました。やはり、リアル句会はいいなあと思いました。オミクロン株の流行、つい先程の津波の襲来と、刻一刻と環境の急変を感じさせられる昨今。そんなときであればこそ、各地の皆さまに静岡にお運びいただき、座を共にする喜びを分かち合いたいと願っております。

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