8月24日 句会報告

2022年8月24日 樸句会報 【第119号】

今回の兼題は「残暑」「流星」「白粉花」――今回は念願のリアル句会で、さらに恩田より今回1名、次回1名、計2名の新入会員のお知らせがありました。新しい息吹のちからで、ますます句会が熱を帯びてくる気配がします。そのおかげもあってか、特選・入選・原石賞が生まれる豊作の句会となりました。

特選2句、入選1句、原石賞3句を紹介します。

八月句会報_上2_松林から

  列島の手と足に基地原爆忌 俳句photo by 侑布子

◎ 特選
 初戀のホルマリン漬あり残暑
            見原万智子

特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「残暑」をご覧ください。
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◎ 特選
 斎場へ友と白粉花の土手
             島田 淳

特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「白粉花」をご覧ください。
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○入選
 点滴をはづせぬ母の残暑かな
               猪狩みき

【恩田侑布子評】

入院して日が浅いわけではないことを季語が語っている。長い夏のあいだじゅうじっと入院生活を耐えてきたのに、秋になっても、法師蝉が鳴いても、まだ刺さっている点滴の管。母の痩せた身体に食い入っている針を今すぐはずし、手足をゆったり伸ばしてお風呂に入れてあげたい。しかし、食が細っているのか、「はづせぬ母の残暑」。共感を禁じ得ない句である。

【合評】

  • もどかしさ、鬱陶しさが季語と響き合います。
  •  
     
     
     
    【原】逢坂はゆくもかえるも星流る
                  益田隆久

    【恩田侑布子評・添削】

    百人一首の「これやこの行くも帰るも別れては知るも知らぬも逢坂の関  蝉丸」の本歌取りの句。惜しいことに「は」でいっぺんに理屈の句になってしまった。しかも句末の動詞で句が流れる。流さず、一句を立ち上がらせたい。

    【改】逢坂やゆくもかへるも流れ星
     
     
         
    【原】残暑をゆく壊れし天秤のやうに
                   古田秀

    【恩田侑布子評・添削】

    上五の字余りと句跨りは疲れた心身の表現だろうか。気持ちはわかるが、このままでは破調の句頭だけが目立ち、中七以下せっかくの詩性が押さえつけられてしまう。「残暑」の中をえっちらおっちら「壊れし天秤のやうに」ゆく、よるべない思いと肉体感覚は素直なリズムに乗せ、臍下丹田に重心をおきたい。残暑が逝くのと、残暑の中を自分が行くのと、ダブルイメージになればさらに面白い。

    【改】残暑ゆく壊れし天秤のやうに

    【合評】

    • うだるような残暑の中を辛そうに歩いている自分(もしくは他人)の姿を「壊れし天秤」と表現したのが新鮮です。

     
     
      
    【原】同じこと聞き返す父いわし雲
                  前島裕子

    【恩田侑布子評・添削】

    晩年の笠智衆を思い出す。少しほどけて来ていても、どことなく憎めないいい感じの父である。「聞き返す」は「同じこと」なので、少しつよめた措辞にすると調べも良くなり、すっきりと「いわし雲」が目に浮かんでくる。

    【改】一つこと聞き返す父いわし雲

    【合評】

    • 人生の終盤を迎えた父親。同じことを何度も聞き、何度も話しているように見える。それは父がその都度大事だと思った事を新たに問い、噛みしめているのかも知れない。

     
      
    また、今回の例句が恩田によってホワイトボードに記されました。
     

        残暑
     
     秋暑し癒えなんとして胃の病
                   夏目漱石

     
     口紅の玉虫いろに残暑かな
                   飯田蛇笏

     
        佐渡にて             
     膳殘暑皿かずばかり竝びけり
                 久保田万太郎

     
      

       流星
     
     星のとぶもの音もなし芋の上
                 阿波野青畝

     
     流星や扉と思ふ男の背
       恩田侑布子『イワンの馬鹿の恋』

     
     

        白粉花おしろい
     
     おしろいや屑屋が戻る行きどまり
                   佐藤和村

     
     おしろいのはなにかくれてははをまつ
          恩田侑布子『振り返る馬』

    【後記】
    筆者は現在インドに在住しており長らくリアル句会には参加できていません。ですがこうやって月に2度、会員の俳句をじっくりと読むことで、ある意味家族以上に近い存在に思えてくるから不思議です。インドで生活しながら、そんな俳句の力をしみじみと感じています。

    (芹沢雄太郎)

    今回は、◎特選2句、○入選1句、原石賞3句、△1句、✓2句、・12句でした。
    (句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です)

    八月句会報_下1_丸ポスト

      夏草を分けまつさをな妣の国 俳句photo by 侑布子

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    8月7日 樸俳句会 特選句・入選句紹介 

    ◎ 特選
     母の恋父は知りたり蚊喰鳥
               見原万智子

    特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「蝙蝠」をご覧ください。
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    ○入選
     大南風屋号飛び交ふ浜通り
                  見原万智子

    【恩田侑布子評】

    「浜通り」は広辞苑では「福島県東部の海岸地方の称。内陸地方の中通りに対していう」と特定しています。関東から陸奥国に入る重要な街道でした。三・一一以前の福島浜通りの光景を、大震災以後と対比させ、批評的に浮かび上がらせた現代社会詠ならば、二重三重の奥行きがあり特選でした。翻ってこちらは、漁港焼津の浜通りに実家をお持ちの作者。船主や海鮮問屋の屋号が港に通じる浜通りに飛び交っています。焼津の人の声は大きく賑やかで「ラテン民族」とも言われ有名ですが、それが大南風にちぎれそう。すぐにでもここに行きたくなる健康的な俳句です。
     

    八月句会報_下2_釣り

      あめつちは一枚貝よ大昼寝 俳句photo by 侑布子

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