9月4日 句会報告

2022年9月4日 樸句会報 【第120号】

今回は樸はじめてのzoom句会となりました。普段静岡で行われているリアル句会に来ることができない県外の会員はもとより、インドから参加される方もおり、画面上は一気ににぎやかに!新入会員おふたりとも初の顔合わせとなりました。まるでリアル句会さながらの臨場感に、場は大いに盛り上がりました。
兼題は「秋灯」「芒」「葡萄」です。

特選1句、入選1句、原石賞3句を紹介します。

9月上

photo by 侑布子

◎特選
 花すゝき欠航に日の差し来たる
             古田秀

特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「花芒」をご覧ください。
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○入選
 病中のことは語らずマスカット
              活洲みな子

【恩田侑布子評】

闘病中、もしかしたら入院中、作者には体の不調がいろいろとあった。痛みや、慣れない検査の不安や、初めての処置の不快感など。でもこうして愛する家族とともに、あるいは気の置けない友とともに、かがやくようなマスカットをつまんでいる。しずかな日常。いまここにある幸せ。

 
 
【原】 群れてなほ自立す葡萄の粒のごと
              小松浩

【恩田侑布子評・添削】

言わんとするところはいい。表現に理屈っぽさが残っているのは、作者自身、まだ心情を整理し切れていないから。一見、群れているようにみえるが、黒葡萄は一粒づつ自立している。その気づき、小さな発見を活かしたい。「群れてなほ」は俳句以前の舞台裏に潜めよう。

【改】 一粒の自立たわわや黒葡萄
【改】 自立とや粒々辛苦黒ぶだう
 

     
【原】 ぐるぐると小さき手の描く葡萄粒
              猪狩みき

【恩田侑布子評・添削】

くったくなく一心にクレヨンで葡萄を描く子ども。そこから生まれてくる葡萄のダイナミズム。情景にポエジーがある。しかし、このままでは中七の小さい指先の印象と季語の粒がやや即きすぎ。そこで。

【改】 ぐるぐるとをさな描くや黒ぶだう
 

  
【原】 深刻なことはさらりと花薄
             活洲みな子

【恩田侑布子評・添削】

「さらりと花薄」のフレーズは素晴らしい。「深刻なこと」は抽象的。自分自身に引きつけて詠みたい。直近の深刻なことかもしれないが、作者の境遇を存知しないので、ここでの添削は、生い立ちの不遇を窺わせる表現にしてみた。

【改】 幼少の身の上さらり花すゝき

 
  
また、今回の例句が恩田によって紹介されました。
 
秋灯を明うせよ秋灯を明うせよ
               星野立子

 
白川西入ル秋灯の暖簾かな
               恩田侑布子

 
たよるとはたよらるゝとは芒かな
             久保田万太郎

 
新宮の町を貫く芒かな
             杉浦圭祐

 
わが恋は芒のほかに告げざりし
            恩田侑布子

 
葡萄食ふ一語一語の如くにて
              中村草田男

【後記】
夏雲システムとzoomのおかげで遠隔地にいながらにして臨場感たっぷりの句会ができるようになりました。物理的距離を越えて顔を見ながら会話できるというのは想像以上に良いものですね。これからの“ニューノーマル”な句会のかたちにも思えました。テクノロジーの進歩は人間関係を希薄にもしましたが、繋ぎ止めもしてくれました。不確実性・予測不可能性がますます高まる現代において、社会の表層を漂うように点在する私たちが感動と内省を繰り返して詠んでいく言葉こそが互いを舫う紐帯になるのかもしれません。

(古田秀)

今回は、◎特選1句、○入選1句、原石賞3句、△0句、✓1句、・5句でした。
(句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です)

9月下

photo by 侑布子

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9月28日 樸俳句会 
兼題は「星月夜」「小鳥・色鳥」「蟷螂」です。
入選1句、原石賞3句を紹介します。

○入選
 猫の目に落ちゆく眩暈星月夜
              益田隆久

【恩田侑布子評】

静かな星の夜。懐に猫を抱いて庭先に出た。「なんてきれい。お前にも見えるかい」。猫の顔を覗いた途端、その眼に吸い込まれた。なんと、星空がそのまま映っているではないか。底知れぬ井戸に吸い込まれそうだ。昼間の猫の目が宿す光は碧く妖しいが、闌干たる星空の下、その目はめくるめく光を散りばめて渦巻いていた。切れ字はないが、一句が日常次元から見事に切れている。

    
【原】 死してなほ草と揺れゐる蜻蛉かな
             芹沢雄太郎

【恩田侑布子評・添削】

蜻蛉の本意を捉えた俳句眼が利いている。ただ、澄む秋の哀れを表現すべきところ、「とんぼ」の濁音の訓みとリズムはぼっとりとして重たすぎる。不要なルビは振るべきではないが、必要なルビはしっかり振って、蜻蛉を清音の「あきつ」と訓ませたい。そうすれば調べも内容にふさわしく澄みわたろう。

【改】 死してなほ草と揺れゐる蜻蛉あきつかな

最初からこうルビがあれば、入選句以上の句。

    
【原】 斧たたみ蟷螂総身が耳と目に
              小松浩

【恩田侑布子評・添削】

原句は「耳と目」になる」と二つの感覚器官を持ってきて、俳句には欲張りすぎる。これをただ一つにすれば、面白い俳句になる。斧をたたんだ蟷螂が眼だけになってしまう瞬間を書きたい。

【改】 斧たゝんだるや蟷螂眼となんぬ

    
【原】 金色のなみ一条の曼珠沙華
             前島裕子

【恩田侑布子評・添削】

作者は日本の秋の原風景を描こうとしている。その意欲やよし。ただし、原句の中七は「なみ一条の」と続けて読む方が自然で、そうすると切れがなくなる。順序を変え、俳意たしかに上五に感動の切字をおきたい。稲田の黄金に実った畦に、曼珠沙華の群れが一条の帯となって走っているではないか。

【改】 ひとすぢや金の波まの曼珠沙華

    

9月句会報3

photo by 侑布子

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