12月4日 句会報告

2022年12月4日 樸句会報 【第123号】

 近くの市立図書館に子どもたちの選んだ今年の漢字が掲示されていました。第1位は「楽」、第2位は「友」。様々な規制が少し緩んだだけなのに…コロナ禍が子どもたちにどれだけ多くの我慢を強いていたかを痛感しました。
 今年4回目のZoom句会、兼題は「鴨」「冬紅葉」「大根」です。入選4句、原石賞6句を紹介します。

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  さびしさは冬の瀬音に洗ふべし 俳句photo by 侑布子

○入選
 戒名は父の来し方冬銀河
               前島裕子

【恩田侑布子評】

 戒名に刻まれているのはわずか数文字です。でもそこには父の一生が凝縮されています。戦中、戦後の筆舌に尽くしがたい災禍を生き抜いて、母と力を合わせて作者兄弟を育ててくれたなんとも慈愛深い父親像が浮かびます。荘厳な冬銀河の中に刻まれるのがふさわしい威厳のあるそして誰よりも愛しい戒名です。
 

 
○入選
 日向ぼこ付箋だらけの句集抱き
               活洲みな子

【恩田侑布子評】

 日向ぼっこしているとのんびりうつらうつらしかかるものですが、なんと作者は「付箋」をいっぱいつけた「句集」を抱いています。俳句に日々向き合う真摯さが香ります。よく味わってみると、「日向ぼこ付箋だらけの文庫抱き」では到底味わえない広やかさがじわじわ染み出してきませんか。付箋を貼られた俳句一つ一つ、が、それぞれの空間と時間を持って待っていて、眠りからこの世へ呼び覚ましてくれる人を待っているよう。なんと豊かな作者と読者との交歓の姿、温かな俳句人生でしょうか。
 
 
 
○入選
 大根の熱き中まで透きとほる
               小松浩

【恩田侑布子評】

 ふろふき大根、またはあっさりと白味魚などと炊き合わせた旨味の濃い白い大根を思います。面取りされたまんまるな輪切りのなつかしさ。三センチはあろうかという厚さは中心まで熱々で透きとほっています。ごく卑近な食べ物である大根の炊いたんに玲瓏の感を抱いたところ、句姿が美しい。一物仕立ての俳句は至難なのに、素直な実感がじわりときて美味しそうです。これ見よがしでない俳句を初心で作れるとは大したものです。
 
 
 
○入選
 抜糸後の痺れまじまじ冬紅葉
               見原万智子

【恩田侑布子評】

 「まじまじ」は 日本国語大辞典によると第一義は眠れないさまですが、第三に、「ひるまないではっきりと言ったり見つめたり見きわめようとしたりする様を表す語」があります。術後の麻酔が覚め、しばらく続いた痛みが引くと、今度は皮膚のひきつれたような「痺れ」が気になり出します。作者は気にならなくなる日まで、まずはこの痺れを前向きに受け止めていこうと決意します。冬紅葉の木立を歩きながら、わが人生が冬へ向かってゆくこれも一つの序章、華やかな紅葉の日々なのだと自分に「まじまじと」脳神経の覚醒を言い聞かせているのです。季語の冬紅葉がよく響く凛とした俳句です。さらに、これが「術後の痺れまじまじと冬紅葉」と書かれていたら文句ない特選句でした。
 
 
 
【原石賞】冬花火大往生の父たたふ
               前島裕子

【恩田侑布子評・添削】

 俳句の表現を云々する前に、立派なお父様の一生とご家族の愛情に脱帽します。日記なら「たたふ」でいいです。素晴らしい子の親への愛情です。俳句表現として練り上げるならば、

【添削例】遠き冬花火大往生の父

句跨りの音律に敬愛と悲しみを込めましょう。
 
 
  
【原石賞】温もりのきえてゆく父冬紅葉
              前島裕子

【恩田侑布子評・添削】

 終焉を迎えた父と冬紅葉の配合の句です。取り合わせではなく、終焉の姿を冬紅葉そのもの結晶化して差し上げたらいかがでしょうか。
 
【添削例】温もりのきえゆける父冬紅葉
  
  
  
【原石賞】葉も皮も大根づくし素浪人
              見原万智子

【恩田侑布子評・添削】

 内容に共感します。なかなかいいです。ただ「も」「も」の畳み掛けと「づくし」はくどすぎませんか。

【添削例】葉と皮の大根づくし素浪人

こうすると「素浪人」の措辞が効いて、脱俗の風流が感じられる素晴らしい俳句になります。
 
 
 
【原石賞】ロケット打ち上がる空よ大根抜く
              益田隆久

【恩田侑布子評・添削】

 内容には大いに共感しますが、リズムが悪いです。「打ち上がる空/大根抜く」と中七は名詞句で切れを作ると調子がよくなるばかりか、景もはっきり見えるようになり、冬の壮快感が出ませんか。

【添削例】ロケットの打ち上がる空大根抜く
  
  
  
【原石賞】国引や波は冬日をたゝみ込み
              古田秀

【恩田侑布子評・添削】

 島根に「国来、国来」と新羅の国の一端を大山を杭にして綱で引っぱった『出雲国風土記』に記された神話があり、国引きの伝説が残っています。弓ヶ浜から眺めた海でしょうか。その神のおおらかな国引き神話は掻き消え、近頃は隣国と冷ややかな感情が行き来しています。その現状を憂えるクリティシズム躍如たる句でもあります。「たゝみ込み」という複合動詞がやや説明的なので、畳みたりの連体形にして余白を残しましょう。

【添削例】国引や波は冬日をたゝんだる
  
 
 
【原石賞】影に添ふ冬の灯や紅鶴フラミンゴ
              田中泥炭

【恩田侑布子評・添削】

 ユニークな把握において今回随一の句です。作者は面白い感性を持っています。調べをととのえると幻想性が増しそうです。

【添削例】紅鶴ふらみんご冬ともしびに添ふる影 
 
でも、これがもしも私の俳句なら「は」行の音韻を生かして、さらに幻想的にしてみたいです。
 
ひとかげに添ふる冬灯やふらみんご
 
 
 
今回は、○入選4句、原石賞6句、△6句、✓9句、・7句でした。
(句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です)

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  万年筆まはして仕舞ふ冬はじめ 俳句photo by 侑布子

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12月21日 樸俳句会 特選句・入選句紹介 
 
 
 
◎ 特選
 鑑真の翳む眼や冬の海
           金森三夢

特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「冬の海」をご覧ください。
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○入選
 年毎にマスク大きく見ゆる母
               猪狩みき

【恩田侑布子評】

 かなりの高齢になると、最初は身体が痩せてくるが、最後は顔まで縮んでしまう。座後の「見ゆる母」がいい。マスクは大きくなるはずがない。「大きく見ゆる」といったところに母を思う悲しみが端的に表現されていて、胸を打つ。防疫上の意味も負いながら、このマスクは冬季の寒さ、厳しさを存分に感じさせる。
 
 
 
○入選
 マスクしてアンドロイドの歩く街
               益田隆久

【恩田侑布子評】

 パンデミックで常態化してしまった風情も人情もない、マスクをかけた無言のバラバラの人の往来である。「人の流れ」ではなく、データ化される数だけの「人流」と化した街の冷感と言おうか。一見、冬の季感がないようだが、心象の寒々しさは気象の「冬」を超えている。近未来の都市がパンデミックを機に一気にやってきたよう。
 
 
 
○入選
   父の三七日
  狭き部屋母には広し今朝の雪
               前島裕子

【恩田侑布子評】

 屋敷からマンションに移って、長寿の父母が一室に揃っていた時は狭く感じたのに、父の急逝後、一人となった老母には、ただ広々として虚しいだけ。折しも朝から雪が降り出した。中七までの悲しみの内容を受け止める「今朝の雪」の下五の着地が理屈を超えて素晴らしい。雪は悲哀だけでなく、白い清らかさですべてを包むようにも感じられる。
 
 

【後記】
 師走の平日とあって常より参加の少ないリアル句会となりましたが、師の俳句への情熱が言葉にあふれ、参加者にとっては自身の句作を反省する密度の濃い学びの機会となりました。
 師の強調されたのは、「上手く作ろうとする俳句はその人ではない」ということです。真実の句であるからこそ共感する。真心、率直、真情、素直、切実、足元から立ち上がる、借り物でない、スケッチでない、上手く作ろうとする作為から離れる、真率な(正直で飾り気のない)句。慌ててメモをしながら、師の選評には、根底にいつもそれらの言葉があったことを改めて感じました。

(活洲みな子)

 
 

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  淡交をあの世この世に年暮るゝ 俳句photo by 侑布子

「12月4日 句会報告」への1件のフィードバック

  1. 真率な句・・・足元から立ち上がる。借り物でない。スケッチでない。腑に落ちます。「牧谿」の柿の水墨画。あの余白から立ち上る匂い。あの匂いを一生にひとつだけ俳句として残せれば他には何もいらないとさえ思います。

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