2023年4月2日 樸句会特選句
しめ縄の低き鳥居に春の風
猪狩みき
田舎に行くと、子どもの丈ほどの鳥居もあれば、貫の高さはあっても、しめ縄が低く垂れて結ばれている鳥居もある。どちらも頭を低くしなければ通れない。そこに自ずと父祖からわたしたちが受け継いできた産土神との穏やかなかかわりの姿がある。身を低めてくぐるゆかしさは、信仰というより習俗の懐かしさだ。吹いているのは、秋風でも北風でもない。温かな「春の風」である。作者は吟行地でいちばん最初に肉眼が捉えた奥藁科の鳥居から、列島に住みなす津々浦々の同胞の普遍的な心性を掬い上げたのである。
(選 ・鑑賞 恩田侑布子)
(選 ・鑑賞 恩田侑布子)