2023年4月2日 樸句会特選句
お薬師様見下ろす村に花吹雪
海野二美
「銀の匙」で有名な中勘助が戦中疎開した服織村(現・羽鳥)から、藁科川を車で遡ること三十分。茶畑の広がる坂ノ上に薬師堂がある。急な石段の上には平安時代の一木造りの小柄な諸仏がひしめき、中央には金色の薬師如来が安座されている。いつの頃よりか、近在の目を病むものは、「め」の字を半紙に書いて、お薬師様に眼病封じの奉納をするようになった。おりしも、みはるかす足下の土手には花吹雪が鱗粉のように流れている。川沿いに細々と広がる村を見下ろす薬師如来の慈眼は、そのまま作者の童画タッチのやさしさになっている。
(選 ・鑑賞 恩田侑布子)
(選 ・鑑賞 恩田侑布子)