句会報告 5月7日

2023年5月7日 樸句会報 【第128号】

 太陽暦5月、[さつき]です。今回から季語が[夏]になりました。歳時記の冊が改まりました。実感としては まだ[夏]には早い感もありましたが、季節感は捉え直すものと思い直しました。
 兼題は「立夏」「葉桜」「柏餅」です。特選2句、入選2句、原石賞3句を紹介します。

 

IMG_7012

癒えてから哀しみをいふ夜の新樹 俳句 photo by 侑布子

 
 
 
◎ 特選
 父母は茅花流しの向かう岸
           活洲みな子

特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「茅花流し」をご覧ください。
            ↑
        クリックしてください
 
 
 
◎ 特選
 紙兜脱ぎて休戦柏餅
           上村正明

特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「柏餅」をご覧ください。
            ↑
        クリックしてください
  
 
 
○入選
 初夏やタンクトップにビーズ植う
               都築しづ子

【恩田侑布子評】

 なんの飾りもないタンクトップに、細やかなビーズの光を添える。一人の手芸の時間を楽しむ作者に、心ときめく夏の日々の予定が想像される。ことに、句末の「植う」は秀逸。たんなるおしゃれさんではない聡明な作者の横顔が目に浮かぶよう。
 
 
 
○入選
 葉桜の校庭脇の土俵かな
               都築しづ子

【恩田侑布子評】

 相撲部のために校庭の隅に「土俵」がこしらえてある。すべすべして白い土俵の土と葉桜の配合がいかにも初夏の涼風を感じさせる。ひとけがなく静まっている土俵というものはいいもの。
 
 
 
【原石賞】真新しちちの墓石に緑さす
               前島裕子

【恩田侑布子評・添削】

 ついこの間まで肉体があって手に触れられた父が、墓石になってしまった。「真新しい」という句頭に思いが溢れる。おりしも白御影と思われる石に若葉のかげがさしている。墓石になった父が、地中から自分を励ましてくれるようだ。「生きているうちはしっかり前を見て歩きなさいよ」。原句は、「真新し」の終止形で上五に切れが生じ、中七の「ぼせきに」も軽い一呼吸があり、リズムがややたどたどしい。「真新しき」と打ち出したいが字余りになるので、上五は「真新まつさらな」として感動の焦点を絞り、「ぼせき」は「はかいし」とやわらかい調べにしたい。悲しみが言外に伝わるとともに作者の決意が感じられてくる。
 
【添削例】真新なちちの墓石緑さす
 
 
 
【原石賞】スマホおす付け爪のゆび薄暑光
               前島裕子

【恩田侑布子評・添削】

 現代の若い女性は爪先に凝る人が多い。ネイルアートや付け爪まで。それをスマホと取り合わせた動きのある光景がいい。ただし、「おす」は鈍い感じ。「すべる」にすれば、上滑りの生の在り方まで暗に感じられ、現代人の表層的な生の哀しみも微かににじむ。
 
【添削例】スマホすべる付け爪のゆび薄暑光
 
 
 
【原石賞】黒々と命名の「郎」の柏餅
              都築しづ子

【恩田侑布子評・添削】

 生まれてまず子供に名前をつける。この時の高揚感は生涯忘れられないもの。うやうやしく墨を摺り、真っ白な奉書紙にその名を大きく記す。親になった確かな感慨が迫る。原句はこうしたゆたかな内容に、のんべんだらりとしたリズムがそぐわずもったいない。「黒々と」ではマジックペンもあり得る。墨書であることを打ち出せばさらに格調が生まれよう。
 
【添削例】命名の「郎」の墨痕柏餅

   
【後記】
 Zoom句会は毎回、参加者の一人か二人に小さな機械トラブルがありますが、「PCを買い替えた」「これを買い足した」とのご報告が相次ぎました。すっかり安定したという報告の方もあり、少しずつ安心しています。句会は、先生から「今回は好句が多かった」とのお言葉で、お点を頂戴した者も嬉しかったことでした。
 私事ですが、坂井は東京で務めた新聞の後の地元紙での勤務も期限となり、ほぼ隠棲の身になりました。今後とも一層、よろしくお願いします。

(坂井則之)

(句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です)

IMG_6944

吊橋は杉の無垢板夏に入る 俳句 photo by 侑布子

====================

5月21日 樸俳句会
兼題は「卯波」「蜥蜴」「新樹」です。
特選1句、入選1句、原石賞4句を紹介します。
 
 
 

IMG_0031

隣合ふとは薫風の中のこと 俳句 photo by 侑布子


 
 
 
◎ 特選
 卯波立つ廃炉作業の発電所
           猪狩みき

特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「卯波」をご覧ください。
            ↑
        クリックしてください
 
 
 
○入選
 碌山の≪女≫漆黒新樹光
               岸裕之

【恩田侑布子評】

 長野県の碌山記念館は新樹の木立に包まれている。天井のステンドグラスから緑のひかりがさす。安曇野を生地とする夭折の彫刻家、荻原守衛(号・碌山)の代表作にして遺作「女」は、作者自身の、叶うはずもなかった片恋に発した、憧憬と懊悩を体現している。裸婦の漆黒の肌に移ろってやまない初夏の碧いひかりに魅せられる。
 
 
 
【原石賞】囀りに絢爛湧きぬ身内かな
              見原万智子

【恩田侑布子評・添削】

 「囀り」は春の季語で、五月下旬の句会投句には不適切。とはいえ、発想にめざましい詩がある。自然のなかで春鳥の豊潤な囀りに包まれていると、わが身の裡からも「絢爛」たるものが湧き立ってくるようだ。原句は中七の「湧きぬ」で切れ、囀りと自分の身とが分断されてしまった。句末の切字「かな」もはたらいていない。沸き立つ思いは一挙に書き下ろすべき。
 
【添削例】囀りに身の絢爛の湧き立ちぬ
 
 
 
【原石賞】寄せ返す頭痛卯の花腐しかな
               古田秀

【恩田侑布子評・添削】

 新緑は美しいが、神経の繊細なひとにはつらい時期でもある。朝から頭痛が寄せては返す波のよう。卯の花腐しの雨も降っていて、やるせない。暖かくなったとはいえ、足元や首筋は若葉寒である。原句は、「寄せ返す」が、やや辿々しい。「さざなみの」とすれば、「卯の花」の細やかな白い花ともひびき、愛誦性も増しそうだ。
 
【添削例】さざなみの頭痛卯の花腐しかな 
 
 
 
【原石賞】緑蔭に水滴の兎と居れり
               益田隆久

【恩田侑布子評・添削】

 山居の新緑の木立に文房四宝の白兎の水滴。美しい光景である。とはいえ、内容は詩、読み下すと散文。句末の「居れり」は取ってつけたよう。つまり、原句は「緑蔭に水滴の兎」。ここまでで見事に完成した短詩、あるいは短律になっている。個人的には短律もいいと思うが、作者が定型の俳句にしたいなら、さらに「水滴の兎」の焦点を絞りたい。
 
【添削例】緑蔭にみみたて水滴の兎
 
 
 
【原石賞】沖の卯波海道の名はストロベリー
              都築しづ子

【恩田侑布子評・添削】

 言わんとするところは面白い。原句の「海道の名はストロベリー」は説明っぽいので、いっそ、ひと塊の固有名詞、「ストロベリー海道」にしてしまおう。いちごの赤い色の点在と、白い卯波とが引き立て合い、調べも軽快になる。
 
【添削例】ストロベリー海道よする卯波かな
 
 
 

IMG_0028

そそくさと女の端居了りけり 俳句 photo by 侑布子

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です