呵々 十六句

『WEP俳句通信』2022年12月号に掲載されました、恩田侑布子の俳句16句を紹介いたします。
 

IMG_5265

photo by 侑布子


 

      呵々
  

   
  枯蘆にくすぐられゆく齢かな
  
  尾けゆくは地に生ふる影大枯野
  
  駿河湾茶の花凪と申すべう

 

     山上に菩提寺
  華やかに落葉砕きて母がりへ
 
  極月の揚げせんべいは鯵の骨
 
  黄昏の干菜湯いろの橋わたる
  
  冬の夜柱鏡をトンネルに
  
  隔たるや日々片々と敷松葉
  
  青天や枯れたらきつと逢ひませう
  
  葉隠や尽きぬ遊びを佛手柑
  
  錠かけしチェロを背中に落葉道
 
  コートの背「嘆きの壁」に曝したる
  
  浮くもののなべて重たし冬運河
  
  納豆の糸にこゑある冬日かな
  
  淫り喰ふ酢なまこ死後の硬直を
  
  一休の呵々大笑よ寒牡丹

 

 【初出】『WEP俳句通信』二〇二二年十二月号 競詠十六句

    

呵々十六句鑑賞                 

益田隆久

俳句から受けた第一印象です。
個人的解釈につき、まっとうかどうかはわかりませんが。

「呵々十六句」に共通して流れるもの。
「そもそもいづれの時か夢のうちにあらざる、
いづれの人か骸骨にあらざるべし。」   一休宗純

十六句は絵巻物。その展開の流れを味わうと飽きがこない。
 

 
枯蘆にくすぐられゆく齢かな    
第一句目で全体の色調を示す。
枯蘆は自分を見ているもう一人の自分。
ああ、あたしってなんか理由はないけど可笑しいよね。
っていうか自分で笑うしかないじゃん。    

尾けゆくは地に生ふる影大枯野   
ああ、やっぱりまだ燻り続けているいろんなものがあるのかなあ。   

駿河湾茶の花凪と申すべう  
いままで色んなことがあったけど、少しは振り返る余裕が出来たのかなあ。   

黄昏の干菜湯いろの橋わたる  
歳を取るほど魅力的になる女でいたいよなあ。   

冬の夜柱鏡をトンネルに  
結局、人の死って、朝であり、春であり、トンネルを抜けるということなのかなあ。   

隔たるや日々片々と敷松葉  
人生ってさあ、斑模様だよね。密度の濃い時もあったし、薄い時もあったなあ。   

青天や枯れたらきつと逢ひませう  
死んだら好きなあの人とも逢えるよね。    

ここから転調。 
   
錠かけしチェロを背中に落葉道  
今まで数え切れないほどたくさんの俳句を作ってきたよなあ。
それらは捨てるわけじゃないけど鍵をかけておこう。
そして、あたしにしか作れない新しい俳句を作ってやるぞ。   

浮くもののなべて重たし冬運河  
重くて流れていかないんだよなあ。いつまでも浮いてて嫌んなっちゃう。  

納豆の糸にこゑある冬日かな  
あの日のあの時の声がいつまでも耳に残ってるなあ。   

淫り喰ふ酢なまこ死後の硬直を  
あたしが死んだら、あたしの俳句を誰かが愛してくれるのかしら。  

 
   
一休の呵々大笑よ寒牡丹  

「そもそもいづれの時か夢のうちにあらざる、  
いづれの人か骸骨にあらざるべし。」一休宗純    

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です