3月5日 句会報告

2023年3月5日 樸句会報 【第126号】

 1年の区切りはいつ?と考えると、お正月より3月、4月が相応しい気がします。卒業、入学、転勤、退職、新社会人。たくさんの別れと出会いが、冬から春への季節替わりとともに、再出発にふさわしい雰囲気を生み出してくれるからでしょうか。樸にもさらに新しい会員の方々が加わり、春爛漫。4月吟行会をステップに、完成した規約の下で、恩田代表と樸の仲間が理想とする俳句の会へといっそう邁進していきたいものです。
 兼題は「山笑ふ」「春の鳥」「菜の花」。特選1句、原石賞5句を紹介します。

 

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  まつことの待たるゝ事に似てさくら 俳句 photo by 侑布子


 
 
 
◎ 特選
 春の鳥五体投地の背に肩に
           芹沢雄太郎

特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「春の鳥」をご覧ください。
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【原石賞】菜の花の果てを見つけて人心地
               島田淳

【恩田侑布子評・添削】

 いちめんのなのはな いちめんのなのはな が七行続き、かすかなるむぎぶえ いちめんのなのはな で、詩の一聯が終わる山村暮鳥の詩を思い出します。
 たしかに一見明るい「菜の花」ですが、あぶら臭い匂いと、黄と緑葉の対比に、繊細な作者はふっとひかりの牢獄めくものを感じたのかもしれません。「菜の花の果て」に「人心地」を見つけたのは詩の発見です。ただ、中七で「見つけ」たよと手の内を明かしてしまったことは惜しまれます。

【添削例】菜の花の果てに来りぬ人心地
 
 
  
【原石賞】もふ泣くなもふ菜の花を摘みにゆけ
              見原万智子

【恩田侑布子評・添削】

 歴史的仮名遣いを選んだ方は、投句する前に、面倒くさがらず辞書に当たって、自分の表記が正しいか、いちいち確かめてみましょう。「もふ」は古文では「思ふ」になります。正しい表記にすると、春のひかりに肉親の情が溶けあう素晴らしい俳句になります。
 
【添削例】もう泣くなもう菜の花を摘みにゆけ
  
  
  
【原石賞】ヤングケアラア菜の花の群れ見つめをり
              金森三夢

【恩田侑布子評・添削】

 菜の花は通常は一本では咲かないので「群れ」は言わでもがなの措辞です。代わりに場所を入れると句が締まります。「畦」でも放心のさまは表せますが、「土手」とすることで、健気なヤングケアラーの家庭内に立ち塞がる鬱屈と、堤防の向こうの緩やかな川の流れまでが想像されてきます。
 
【添削例】ヤングケアラー菜の花の土手見つめたる
 
 
 
【原石賞】潮風ビル風菜の花に揉みあへり
              古田秀

【恩田侑布子評・添削】

 言わんとするところは面白いです。ただなんとかしたいのは、字面と調べのごちゃつき感です。たった漢字一字を変えるだけで、都会の海浜部の春風を活写でき、水上都市、東京が浮かび上がります。
 
【添削例】海風ビル風菜の花に揉みあへり
 
 
 
【原石賞】仕送りのこれが終わりと花菜道
              活洲みな子

【恩田侑布子評・添削】

 学生時代の終わりでしょう。親からしたら長い仕送りの日々が、子としてはあっけなく終わるもの。子の立場から詠んだ句として、放り出されることの不安と解放感を口語の「これつきり」に託してみましょう。しばらく倹約しないとやっていけないけど、まあなんとかなるさ、という朗らかな現実肯定のにじむ俳句になります。

【添削例】仕送りのこれつきりよと花菜道
 
 
 
【後記】
 春は兼題の季語も、どこかのんびり穏やかなものが多いように感じました。この季語というもの、そこに包まれる様々なイメージをたった一語で語ることができるものなのですね。俳句の専門用語で言えば「本意」「本情」。いくら調べやリズムが整っていても、季語が1句のなかで孤立して見えるような俳句は良い俳句ではない———。それが少しわかりかけてきただけでも、この半年の悪戦苦闘は無駄ではなかったかな、と思っています。前途遼遠ではありますが…。

(小松浩)

今回は、◎特選1句、○入選0句、原石賞5句、△4句、✓シルシ5句、・9句でした。
(句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です)

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  天つ日をちりめん皺に春の水 俳句 photo by 侑布子

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3月19日 樸俳句会
兼題は「霞」「海苔」「雉」です。
入選1句、原石賞2句を紹介します。
 
 
 
○入選
 選挙カーにはか鎮まり雉走る
               山田とも恵

【恩田侑布子評】

 山村にやってきた市議か町議の選挙カーでしょう。まばらな人家に向かって名前を連呼していた大声が突然途切れます。オヤッ。鍬の手を止めると、トトトトツ。赤い頭に深緑の羽をかがやかせ、大きな雉が道をよぎってゆきます。「桃太郎」に出てくる国鳥は不変でも、日本は少子社会で衰退の一途。十年もせずに、この谷も廃村になりかねません。日本固有種の雉の羽が春を鮮やかに印象させ、思わず見惚れた放心の春昼。面白くて、やがてそのあとが怖くなります。
 
 
 
【原石賞】海苔炙る有明海を解き放て
               林彰

【恩田侑布子評・添削】

 諫早湾の開門問題は地元漁業者のみならず、全国民の長年の関心事でした。このたび、最高裁の「開けない」判決を知った作者は義憤を覚えています。ただ、原句は勇ましすぎます。俳句はプロパガンダでもスローガンでもありません。作者のせっかくの切実な思いを生かすには、語調は逆に静める方がいいのです。鎮めて祈りのかたちにしましょう。

【添削例】有明海解き放てよと海苔炙る
 
 
 
【原石賞】板海苔や波わかつよにはさみ入れ
               山田とも恵

【恩田侑布子評・添削】

 照り、コク、香りの揃った上等の海苔でしょう。手にとってつぶさに見ると、細かい繊維はたしかに夜の海原を思わせ、下半分のひらかな表記もさざなみのようです。そこに料理鋏を入れる。それだけのことですが、「波わかつよに」に詩の発見があります。上五を「や」の切字で切っているので、終止形にするとさらに句が引き緊まります。

【添削例】板海苔や波わかつよにはさみ入る 

 
 

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       草芳し「死んだらそこらへんにゐる」 俳句 photo by 侑布子

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