9月10日 句会報告

2023年9月10日 樸句会報 【第132号】

 一年の内でこの時期は暑さによる疲れや中だるみで俳句の出来が概して夏枯れ状態になるという先生のお話でしたが、開けてみたら、◎2句〇3句△4句✓4句とかなりの豊作でした。不出来を暑さのせいにできないとひとり内心ひやっとしましたが、措辞や評価を巡って議論も活発で面白い句会となりました。
 兼題は「新豆腐」「虫」「稲の花」です。

  
 

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かまきりの指揮者に合はす厨唄  恩田侑布子(写俳)


 
 

◎ 特選
 読み耽る昭和日本史虫の闇
           活州みな子

特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「虫の闇(一)」をご覧ください。
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◎ 特選
 惑星のなりの遊具や虫の闇
           田中泥炭

特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「虫の闇(二)」をご覧ください。
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○入選
 図書館の自動施錠や虫の闇
               古田秀

【恩田侑布子評】

 NHKもAIの自動音声でニュースを読ませる時代である。公的機関では特に「自動施錠」が珍しくなくなった。わが愛する古書や新刊本が架蔵されている馴染みの図書館もまた、閉館直後に、ブルータスお前もかの「自動施錠」がなされる。周りは木立が豊かで、とっぷりと虫の闇が広がっている。人間の営みがいつかしらか一つずつAIの管理下に組み込まれてゆく時代の居心地の悪さ。
 
 
 
○入選
 耳鳴のいつでも聴けて稲の花
               田中泥炭

【恩田侑布子評】

 耳鳴りは不快なもの。でも、それが常住茶飯になると慣れるものらしい。気にすれば気になる。気にしなければそれが自分のデフォルト。ところが作者の心境はもう一段垢抜けている。「耳鳴」なら私は「いつでも聴け」るのよと、やや誇らしげだ。そこに「稲の花」からゆらりと垂れた白い小さな葯が風に揺らぐ稲田の光景が一面に広がる。不快なはずの肉体の現象をおだやかな俳味に転じている。
 
  
 
○入選
 残暑なほ「溶かしちまいなミサイルも」
               林彰

【恩田侑布子評】

 ロシアのウクライナ侵略戦争開始いらい、毎日毎晩、戦火の現場と、武器の応酬の画面がニュースに途絶えることはない。核弾頭を運搬するミサイルも種々開発され、戦略核やら戦術核やら喧しい。いずれにしても無辜の市民を大量虐殺する武器にちがいない。酷暑の後の残暑は終わりが見えず、地球のあちこちが山火事や大洪水の悲鳴を上げているのに、愚かな戦争をまだやめない。作者は、ミサイルなんか暑さに「溶かしちまいな」と伝法な啖呵を切ってみせる。「残暑なほ」のやりきれなさ。

 
   
【後記】
 今回の兼題の「新豆腐」は、大豆の収穫は秋でも実際豆腐になるのは冬から春にかけて、また、「稲の花」も今ではたいていの地域で8月の上旬には終わってしまう(そもそも田んぼを目にする機会がない人も多い)という状況で、季語の中には実感をもって理解することが難しくなっているものも多いと改めて感じました。普通に暮らしていたら気づくこともないまま失われていってしまう風物を何とか理解し自分に引き寄せようとする作業ができるのは俳句があればこそ。こうした季語を詠むのは難しいので私などついつい飛ばしがちですが、本当はこれこそ豊かで贅沢な時間ですね。

(天野智美)

(句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です)

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告げざれば火のまま凍る曼珠沙華  恩田侑布子(写俳)

  

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9月24日 樸俳句会
兼題は「秋彼岸」「栗」「曼珠沙華」です。
原石賞2句を紹介します。
 
 
   
【原石賞】不意つかれ一輪の塔曼珠沙華
              小松浩
 
【恩田侑布子評・添削】

 素直な感動がある。草の緑を背景に一輪の曼珠沙華が立ち上がっている。無心に見ると一つの精緻な塔のように思えてくる。が、上五の「不意つかれ」はイージーな言葉。不意をつかれたから、さてどうなったか。そこからを書くのが俳句。周りの夾雑物の一切を捨象し、塔として自分の目の前に立ち上がった一茎の曼珠沙華に焦点を絞ろう。句意が勁くなる。

【添削例】一輪の塔をまつぶさ曼珠沙華
 
 
  
【原石賞】露の朝三百年の橅の息
              活洲みな子
 
【恩田侑布子評・添削】

 朝露はあるが、露の朝というだろうか。耳で聞くと「梅雨の朝」と思う。三百年の橅はほぼほぼ大木だが、昔、函南原生林で、倒れて半年の樹齢七百年の橅の勇姿を見たことがある。そこで六百年の威風堂々たる老樹を描き出したい。

【添削例】朝露や六百年の橅の息

    

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結界や露の青竹さしわたす  恩田侑布子(写俳)

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